作者:市川保子 今回は日本語ではもの・ことを比較するとき、どのような言い方をするのか考えます。 日本語には英語のように形容詞のbig, bigger, biggestのように、比較級、最上級というものはありません。格助詞「より」「が」、そして名詞「ほう」が組み合わさって、比較表現を作ります。 (1)北海道は九州より大きいです。 これは「北海道」について「九州」より大きいことを述べた文です。これに「が」「ほう」が付いたものが(2)です。 (2)北海道のほうが九州より大きいです。 (2)は「北海道」と「九州」を比べて、「北海道」をより大きいと選択した文です。「ほう」は方面という意味ですが、二つのものを比べて一方を選択する「こっちのほう」という意味があります。選択されたものには「が」が使われます。 (2)は語順を変えて(3)のようにもなります。 (3)九州より北海道のほうが大きいです。 三つ以上のものの中での選択は次のようになります。 (4)北海道が(日本で)一番大きいです。 これらの答えを引き出す疑問文では、二つのものの比較は次のように「どちら」を使います。「どちら」はもの、人、場所など何に対しても使われます。 (5)北海道と九州とどちらが大きいですか。 「どちら」のうしろに「ほうが」を付けて、次のようにすることもできます。 (6)北海道と九州とどちらのほうが大きいですか。 (6)に対する答えは、「九州より」を略して、 (7)北海道のほうが大きいです。 (北海道です) が使われます。 三つ以上の比較には、「もの」に対しては「どれ」、人には「誰」、場所は「どこ」、トキは「いつ」などが使われます。 (8)地球と太陽と月と、どれが一番重いですか。 (9)リーさんとポンさんとチョンさん(と)では、誰が一番若いですか。 (10)京都と札幌と仙台の中で、どこが一番静かですか。 三者以上の比較では(7)のように「~と~と~と、・・」「~と~と~(と)では、・・」「~と~と~の中で、・・」などいくつかの言い方ができます。 また、「~と~と~と」と列挙しないで次のように「~の中で」を使うこともあります。 (11)三人の中で誰が一番元気ですか。 このとき、ものに対する質問は「どれ」を使わず「何(なに)」を使うのが普通です。 (12)果物の中で何が一番好きですか。 「どれ」は「これ」「それ」「あれ」というように、具体的に取り上げられたものの中から選ぶときに、一方、「何」は具体的に取り上げられていない全体の中から選ぶときに用いられます。 比較文の中には「~は~が述語」が現れることが多いです。 (13)A:東京と大阪とどちらのほうが人口が多いですか。 B:東京のほうが(人口が)多いです。 (14)A:京都と札幌と仙台の中で、どこが食べ物が一番おいしいですか。 B:仙台が一番(食べ物が)おいしいです。 (13)では、「東京は人口が多い」、(14)では「仙台は食べ物がおいしい」という 「~は~が述語」文が使われています。比較文になったために、「は」が「が」に変わり、下線をつけたように「~が~が」と「が」が二つ並んでしまいます。 「~が~が」となるのを気にしたり、理解できなくなる学習者もいるので、「~は~が述語」文であることの言及してあげる必要があります。 比較の文は形容詞文だけでなく、次のように動詞文にも使われます。 (15)今朝はチョンさんとキムさんとどちらが早く来ましたか。 (16)ポンさんが一番上手に歌が歌えます。 比較文は形容詞の単語の再確認、「~は~が述語」文の練習などにもなり、重宝な文の形です。比較文はうまく行けば、学習者の興味を引き出せる項目です。そのポイントは、何と言っても、学習者の身近なことがらを取り上げることでしょう。 「どちらが好きですか」「何が一番おもしろいですか」「どれが一番おいしいですか」のように、学習者の興味を引きそうな話題から入ってください。まずは、「好きだ」「きらいだ」「いい」「おもしろい」「おいしい」などの形容詞を使ってみてください。 「東京と大阪とどちらが大きいですか」などのおもしろくない質問にはあまり時間はかけないで、場所を比べるなら彼らの住んでいる町や村、話題になっている、またはなった場所、人、ものなど、あまり月並みでない、しかし、比較をしたいようなものを考えてください。学習者はいつも興味津々で少々知らない場所、ものでも興味を示してきます。また、私達以上にいろいろのことを知っています。 既成の教科書は標準的な例文しか載せていない場合が多いので、それにとらわれずに、考えてみてください。 |