作者:市川保子
●「~ほしい」と「~たい」
日本語レッスンの13回目で願望を表す「~たい」を勉強しました。今回は「~たい」とよく似た「~ほしい」です。
まず、「~ほしい」と「~たい」を比較してみましょう。
「~ほしい」は「デジカメがほしい」「日本人の友達がほしい」のように願望を表す形容詞です。同じく願望を表す「~たい」とよく似ており、「~ほしい」を「~たい」を使って表すと、「持ちたい」「所有したい」という意味になります。
決定的に違うのは「~たい」が「(名詞+を+)動詞の連用形」をとるのに対し、「~ほしい」は前に「名詞+が」をとる点です。
(1)デジカメを買いたいです。
(2)デジカメがほしいです。
特に、「動詞+たい」は目的語として通常「~を」をとるのに対し、「~ほしい」は「~が」をとることに注意してください。ときどき「仕事をほしい」「子どもをほしい」など「を」を聞くことがあります。連体修飾節では「子どもをほしい女性」のように「を」が現れることもありますが、現時点では、まだ「が」を使うのが自然です。
なお、英語では「~ほしい」も「~たい」も to wantを使うので、「行きたい」を「行きますほしいです」という学習者が出てきますので注意が必要です。
●第3者の願望を表す場合
「~ほしい」も「~たい」と同様、話し手の願望を表します。ですから、「田中さんはデジカメがほしいです」のように第3者の願望を表すと、不自然になります。第3者の願望を表すときは、「~たい」のときと同じく、「そうだ」「らしい」「と言っている」を付ける必要があります。
(3)田中さんはデジカメがほしいそうです。
らしいです。
と言っています。
ただし、連体修飾節の中では、第3者が主語であっても、次のように「~ほしい」をそのまま使うことができます。
(4)田中さんがほしいデジカメはソニーのものです。
「~ほしい」の代わりに「ほしがる」を用いる場合(例:田中さんはデジカメをほしがっています。)もありますが、「ほしいという態度を見せている」という意味合いを持つことから、意味的なずれが起こる場合があります。特に、敬意を示すべき人に対して使うと、失礼になります。
(5)?小林先生はデジカメをほしがっておられます。
●~てほしい
「~てほしい」は話し手による他者への願望の表現です。
(5)ちょっと手伝ってほしいんですが。
(6)学生にこの本を読んでほしいと思う。
(7)もっと雪が降ってほしい。
これらの文は次のaとbのような構造をとります。
a.(私は) 人に ~てほしい。
(5)(6)がこれに当てはまります。話し手の願望ですから、「私は」は通常省略されます。願望しているのはどちらも「私」で、(5)では「手伝う」のは相手(聞き手)、(6)では「この本を読む」のは学生です。(5)のように相手(聞き手)に対しての願望文では「人に」(ここでは「あなたに」)の部分がしばしば省略されます。
bの構造は次のようになります。
b.(私は)事態が ~てほしい。
bは話し手がある事態が実現することを望んでいるときに使う表現です。(7)がこれに当てはまります。その他、「世界が平和になってほしい」「近くにデパートが建ってほしい」などがあります。
●~てもらいたい
「人」に何かを望む、依頼する言い方として「~てもらいたい」があります。
(5)’ちょっと手伝ってもらいたい。
(6)’学生にこの本を読んでもらいたいと思う。
しかし、(7)’のように、bの構造の場合は「~もらいたい」は使いません。「~もらいたい」は人に対する願望、依頼表現だからです。
(7)’?もっと雪が降ってもらいたい。
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