作者:市川保子
今回は相手を誘う表現「~ませんか」(例:いっしょに行きませんか)と、「~ませんか」とよく似ている「~ましょう」(例:いっしょに行きましょう)について考えま す。
1.「~ませんか」
否定疑問の「~ませんか」が単なる質問なのか、誘いを表しているのかは、微妙なところがあります。
自分が出かけようとしていて、そばにいる相手(田中さん)に、次のように言ったとします。
(1)田中さんは行きませんか。
これは単に相手の意向を聞いているのか、行くのを誘っているのか、発話文だけでは判断できません。これが次のようになれば、誘っていることがはっきりします。
(2)田中さん、いっしょに行きませんか。
(3)田中さんもいっしょに行きませんか。
このように「ませんか」はもともとは相手の意志を問う表現だったものが、誘い・勧誘の表現になったと考えられます。したがって「ませんか」は誘いですが、あくまでも相手の気持ちを尋ねているというところにポイントがあります。
「~ましょう」
「ましょう」は二つの場合があります。英語のLet’s go. Let’s eat.のように「私たちいっしょに」という意志表現と、「誰が行きますか。-私が行きましょう」のように、話し手の「私」の意志を表す場合です。
学習者は「ましょう」=Let’ ~と思ってしまうところがあり、「私が~ましょう」はなかなか定着しないようです。そして、そのLet’s~を問いかけの形にして、「ませんか」(例:映画を見に行きませんか)と誘うべきところを「ましょう」(映画を見に行きましょうか)としてしまいがちです。
「ましょうか」は誘い・勧誘を表すと同時に、促しに近い意味合いをもつことが多いです。
(4)そろそろ行きましょうか。
(5)じゃ、休みましょうか。
「ましょうか」は(4)(5)のように、すでに「行く」、また、「休む」という前提があって、それを実行に移そうと皆にはかる、皆を促すときに使われます。ですから、まだ「行く」とも「休む」とも考えていない相手に、「行きましょうか」「休みましょうか」を使うと唐突な感じを与えます。そのときは、「行きませんか」「休みませんか」が相応しいです。
誘い・勧誘の「行きませんか」に対する承諾は「ええ、行きます」「ええ、行きましょう」の両方使えますが、促しの「行きましょうか」では「ええ、行きましょう」になります。
「ましょう」対「ませんか」ではありませんが、「ましょう」の誤りとして「ます」との混乱があります。日本語には未来を表す動詞の形がありません。「毎日行きます」ですし、「明日行きます」です。 母語に未来の形をもつ学習者には「ます」で言い切るのは不安なようで、「ましょう」を未来系として使ってしまいがちです。
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