作者:市川保子 ●使役表現(使役態) 使役表現というのは、「上司が部下に仕事を手伝わせる。」のように、主語が人に何かをさせることを表すのが基本的な意味です。「人に何かをさせる」のですから、そこには強制的な意味合いが生じることが多いですが、「好きなようにやらせておく。」のように強制を含まない場合もあります。 そこで日本語の使役表現を「プラス強制」と「マイナス強制」に分けて説明したいと思います。 使役文では、原則として、動詞が「を」をとる動詞は(1)、「を」をとらない動詞(自動詞)では(2)の形を取ります。 (1)部下が仕事を手伝う ↓ 上司が部下に仕事を手伝わせる。(~が~に~をV) (2)部下が本社へ行く。 ↓ 上司が部下を本社へ行かせる。(~が~をV) 次の例は「プラス強制」の使役文です。 (1)親が(命令して)子供に部屋を掃除させた。 (2)先生が学生に練習をやらせる。 (3)我が家では子供達を5時にはうちへ帰らせます。 一方、「マイナス強制」の受身表現の意味用法は多岐にわたります。 (4) 子供には、一日に一時間しかテレビゲームをさせない。(許可) (5)変なことを言って彼女を怒らせてしまった。(誘発) (6)あの親は、暗くなっても子供を外で遊ばせている。(放置) (7)私がそばにいながら、孫にけがをさせてしまった。(責任) (5)の「誘発」は、ある事柄・きっかけで引き起こしたことを表します。「困る」「驚く」「泣く」などの感情を表す自動詞が多く使われます。この場合は「彼女を怒らせる」「親を困らせる」のように、必ず「を」とります。 「人に何かをさせる」表現で、人に頼んだりお願いしたりする、また、相手の意志を尊重する場合は、使役表現でなく「てもらう/ていただく」の形をとります。 (7)私は林さんに仕事を手伝ってもらった。 (8)課長の奥さんに教えていただいた。 ●使役やりもらい 「人に何かをさせる」という使役の表現に、授受表現「てあげる/てもらう/てくれる」 などが結び付いたものを、「使役やりもらい」表現と言います。 (9)親が何でも自由にさせてくれた。 (10)写真をとらせていただけませんか。 (11) あした休ませてもらいたんですが。 使役やりもらいは「(さ)せてもらえますか/(さ)せていただけませんか」「(さ)せてもらいたい/(さ)せていただきたい」、また、「(さ)せてくれますか/(さ)せてくださいませんか」のように、相手に依頼する、許可を求める用法として用いられることが多いです。 ●使役受身 使役文がもとの文となって、そこから受身文が作られると、使役受身表現ができます。使役受身は強制的に物事をさせられる(「プラス強制」)ときに用いられ、「マイナス強制」の意味は表しません。 (12) 大学病院では予約をしていても1時間は待たされる。 (13) 店員が上手に勧めるので、買わなくていいものまで買わされてしまった。 「~(さ)せられる」は短縮して、動詞の1グループ(五段活用動詞)では「~される」になることが多いです。ただし、語尾に「-す」を持つ動詞(話す、直す、など)は「~(さ)せられる」のまま用いられることが多いです。 また、2グループ(一段活用動詞)、3グループ(不規則動詞)では「~(さ)せられる」のまま用いられます。 1グループ 働く 働かされる 帰る 帰らされる 話す 話させられる 2グループ 食べる 食べさせられる 見る 見させられる 3グループ する させられる 来(く)る 来(こ)させられる (14) 彼と飲むと、いつも僕がお金を払わされる。 (15) 彼女はいやいや院長の息子と結婚させられた。 (16) 何度も練習させられて、関西なまりを直させられた。 |