作者:市川保子
根拠にもとづいて話し手が判断し、想像する言い方には、「~そうだ(様態)」「~ようだ」 「~らしい」「~そうだ(伝聞)」などがあります。
ここでは、その1番手として、様態を表す「~そうだ」を取り上げます。
●「~そうだ(様態)」の意味用法
赤ん坊を抱っこしていて、その子があくびをしたり、目をとろんとさせているのを見たとき、 あなたはどう言いますか。
(1)この子、もう眠りそうですね。
この文は、話し手が人・もの(ここでは「子供」)が見せる様子・様相(兆候)から自分の感じを述べたものです。
一方、「寝そうだ」は次の会話でも使えます。
(2)A:午後の講義、中世期の哲学についてだよ。
B:ええっ。授業中みんな眠りそうね。
(2)の場合は、その時点でのもの・ことが見せる様子・様相(兆候)ではなく、午後の授業で起こるであろう可能性について述べています。
このように様態を表す「~そうだ」は観察対象の外観から受ける「感じ(兆候)」を表す場合と、その事態が起こる「可能性」を表す場合があります。
「い形容詞」「な形容詞」のような形容詞では、一般に外観から受ける「感じ(兆候)」を表し ます。
(3)この生ハムはおいしそうだ。
(4)この本はおもしろそうだ。
(5)いつもひまそうですね。することがないんですか。
一方、動詞の場合は外観から受ける「感じ(兆候)」と「可能性」の両方を表します。次の (6)は「感じ(兆候)」を(7)は「可能性」を表しています。
(6)(金魚がぱくぱくしているのを見て)ああ、金魚が死にそうだ。
(7)(餅がのどに詰まって)あ、苦しい。死にそうだ。
●「~そうだ(様態)」の連体・連用修飾の用法
「~そうだ」は「~そうな」の形をとってうしろの名詞にかかっていくこと(連体修飾用法)ができます。また、「~そうに」の形でうしろの動詞を説明すること(連用修飾用法)もあります。
(8)ガラスケースにおいしそうなケーキが並べてある。
(9)彼は何でもおいしそうに食べる。
うしろの名詞にかかっていく場合、「~そうな」があるのとないのとでは意味が変わる場合があります。
(10)彼はおもしろい顔をしている。
(11) 彼はおもしろそうな顔をしている。
(10)は彼の顔自体がおもしろいのであり、(11)は彼が何かを見て(聞いて)、おもしろいと 思っている顔をしていることを表します。
●「~そうだ(様態)」の作り方
「~そうだ」はその前に「い形容詞」「な形容詞」「動詞」などをとります。「名詞(+だ)」はとりません。また、「い形容詞」の「いい/よい」は「よさそうだ」という形をとります。
動詞 |
い形容詞 |
な形容詞 |
名詞+だ |
マス形の語幹 +そうだ |
「い形容詞」の語幹 +そうだ |
「な形容詞」の語幹 +そうだ |
名詞+そうだ
|
行きそうだ |
痛そうだ
よさそうだ |
元気そうだ |
独身そうだ
|
●「~そうだ(様態)」と過去形、疑問形
「~そうだ(様態)」は現在の時点だけでなく、過去の時点で外観から受けた「感じ」、また、「可能性」を表すこともできます。
(12)きのう彼女にその話をしたら、嬉しそうだったよ。
(13)きのうはあまりに暑くて、日射病になりそうだった。
また、疑問文も作ることもできます。
(14) A:彼女は仕事を引き受けてくれそうですか。
B:う~ん、どうでしょうね。
●「~そうだ(様態)」と否定形
「~そうだ(様態)」にはいくつかの否定表現があります。「形容詞+そうだ」と「動詞+そうだ」に分けて考えてみましょう。
1)形容詞の場合
「この料理はおいしそうだ」の否定形は「~そうだ」の前を否定する場合と、うしろを否定する場合があります。
(15) この料理はおいしくなさそうだ。
(16) この料理はおいしそうじゃない。
おいしそうではない
(15)の「~なさそうだ」と(16)の「~そうじゃ/ではない」は意味用法はほとんど変わりませんが、「~なさそうだ」が概観を見て直感的に判断をするのに対し、「~そうじゃ/ではない」は、だれかが言ったこと、言われていることに対しそれを打ち消す意味合いがあります。
(17) (店の様子を見ながら)どうもこの店の料理はおいしくなさそうだ。
(18) A:これ見て。道子が作ったのよ。おいしそうでしょう。
B:ええ~っ。ぜんぜんおいしそうじゃないよ。
2)動詞の場合
「雨が降りそうだ」の否定形も「~そうだ」の前を否定する場合と、うしろを否定する場合が あります。
(19) 雨が降らな(さ)そうだ。
(20) 雨が降りそうにもない。
(19)は「降らなそうだ」とも「さ」を入れて「降らなさそうだ」とも言うことができますが、 「さ」を入れる傾向が強くなっているようです。
(20)の「~そうにもない」は「に」か「も」いずれかの省略が可能です。「も」を入れると、 話し手の打ち消しの気持ちが強くなります。
(20)’ 雨が降りそうにない。
(20)’’ 雨が降りそうもない。
「~な(さ)そうだ」と「~そうにもない」は意味用法はほとんど変わりませんが、「~な (さ)そうだ」が形容詞の場合と同じく、概観を見て直感的に判断をするのに対し、「~そうにもない」は、これも形容詞と同じく、だれかが言ったこと、言われていることに対しそれを打ち消す意味合いがあります。
(21) この調子だと雨は降らなさそうだね。
(22) 天気予報では雨が降るっていっていたけど、いっこうに降りそうにもないね。
|