作者:市川保子
根拠にもとづいて話し手が判断し、想像する言い方には「~そうだ(様態)」「~ようだ」 「~らしい」「~そうだ(伝聞)」などがあります。前回の「~ようだ」に続いて、今回は 「~らしい」を取り上げます。
●「~らしい」の意味用法
「~らしい」は「~ようだ」と同じく、ある根拠にもとづく想像を表すと言われていますが、 他に「春らしい天気」のように「典型」を表す用法があります。ここでは「推量」と「典型」に分けて見ていきます。
「~らしい」は根拠にもとづく話し手の判断を表しますが、その特徴は観察対象と距離を置いて判断内容を示す点にあります。
「~らしい」は意味的に見て、伝聞「~そうだ」に近いものと、推量「~ようだ」に近いものがあります。
1)伝聞を表す「~らしい」
天気予報で明日雪が降ると言っているのを聞いたとき、次のような発話が生まれます。
(1)さっき天気予報を聞いたんだけど、明日は雪が降るらしいよ。
(1)は伝聞「~そうだ」を用いた(2)と、ほぼ同じ意味合いを持ちます。
(2)さっき天気予報を聞いたんだけど、明日は雪が降るそうだよ。
「~らしい」と「~そうだ(伝聞)」を比べると、「~らしい」のほうがやや距離を置いて (客観的に)相手に伝えているという意味合いが感じられます。
2)推量を表す「~らしい」
(3)の場合には、話し手の想像や判断が含まれます。
(3)山田は洋子のことをあきらめたらしい。あれから何も言ってこないから。
この場合は「~ようだ」とほぼ同じ意味合いになります。
(4)山田は洋子のことをあきらめたようだ。あれから何も言ってこないから。
(3)「~らしい」と(4)「~ようだ」を比べると、やはり「~らしい」のほうが「山田」にやや距離を置いて(客観的に)相手に伝えているという意味合いが感じられます。この「距離を置いて」というのは、状況・文脈の中で、時に、「無関心に」「冷静に」「無責任に」「冷たく」などの意味合いが生じるときもあります。
また、「~らしい」は文末に付いて第3者の考えや気持ちや行動を伝えます。
(5)a.?小林さんはパーティに出たくないです。
b. 小林さんはパーティに出たくないらしいです。
●「~らしい」の作り方
「~らしい」はその前に「動詞」「形容詞」「名詞+だ」などの普通形をとります。ただし、 「な形容詞」と「名詞+だ」の非過去・肯定での接続の形に注意が必要です。
動詞 |
い形容詞 |
な形容詞 |
名詞+だ |
行く
行かない+らしい
行った
行かなかった |
痛い
痛くない +らしい
痛かった
痛くなかった |
元気
元気じゃ/ではない+らしい
元気だった
元気じゃなかった |
休み
休みじゃ/ではない+らしい
休みだった
休みじゃなかった |
●「~らしい」と「~ようだ」の比較
「~らしい」と「~ようだ」を比べると、次のような違いがあると言えるでしょう。
「情報」というのは推量・判断をするときに、何を根拠にするかということ、「関心度」というのは対象との距離をどの程度置いているかを示しています。
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~らしい |
~ようだ |
情報 |
耳から入ってくる情報の場合が多い。 |
目から入ってくる情報の場合が多い。
体験・経験による判断。 |
主観性 |
「ようだ」より客観的。 |
「らしい」より主観的。 |
関心度 |
話し手の関心度がやや低い。 |
話し手の関心度がやや高い。 |
この比較は絶対的なものではなく、どちらかと言えばそう言えるという程度を示したものです。
●典型を表す「~らしい」
「雨らしい雨」や「山田さんらしい」のように、「名詞+らしい」の形で、「いかにもそのようだ(典型的だ)」という意味を表します。
(6)このごろは雨らしい雨が降っていない。
(7)知っていて誰にも言わないなんて山田さんらしい。
典型を表す「名詞+らしい」と比喩の「~ようだ」は、外国人学習者がときに混乱するところです。
(8)小林さんは男らしい人だ。
(9)小林さんは男のような人だ。
(8)では小林さんは男性であり、(9)では小林さんは女性になります。
(10)今日は春らしい天気ですね。
(11)今日は春のような天気ですね。
(10)では季節は今、春であり、(11)では季節は今、春ではないことになります。
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