作者:市川保子
根拠にもとづいて話し手が判断し、想像する言い方には「~そうだ(様態)」「~ようだ」「~らしい」「~そうだ(伝聞)」などがあります。ここでは、伝聞を表す「~そうだ」を取り上げます。
●「~そうだ(伝聞)」
「普通形+そうだ」は、話し手が自分の聞いたり、本で読んだりしたことを聞き手(相手)に伝えるときに用いられます。伝えるときに話し手は自分の(早く伝えたいとか、価値がある情報だという)気持ちを「~そうだ」に含ませています。
(1)きのうチリで地震があったそうです。
何かの情報源にもとづいて知ったことを伝えるので、(2)のように情報源とともに「~そうだ」が用いられることが多いです。
(2)新聞によると、きのうチリで地震があったそうです。
「~よると」を「~よって」と混同する学習者もいるので、注意が必要です。情報源は「~によると」の他に、「~の話では」「~から聞いたんだけど」なども用いられます。
(3)純子さんの話では、幸子さん、離婚したそうよ。
テレビやラジオの報道では、「~そうだ」を使うことはほとんどありません。
(4)a.チリの地震では多数の死者が出たということです。
b.?チリの地震では多数の死者が出たそうです。
もし、聞いた話を話し手の気持ちを込めることなく、事実だけを伝えるのであれば、テレビやラジオの報道のように、「ということです」「と言っていました」を使えばいいことになります。
また、第3者の考えや気持ち、行動を伝えるときは、文末に伝聞「~そうだ」「~ようだ」「~らしい」などを付ける必要があります。
(5)a.?彼は合格してうれしい。
b.彼は合格してうれしいそうです。
伝聞「~そうだ」は次のようにそれ自身の過去形はありません。また、疑問にすることもできません。
(6)?山田さんは大学入試に失敗したそうでした。
(7)?来年ここで万博が開かれるそうですか。
●「~そうだ(伝聞)」の作り方
伝聞「~ようだ」はその前に「動詞」「い形容詞」「な形容詞」「名詞+だ」の普通形をとります。
動詞 |
い形容詞 |
行く
行かない +そうだ
行った
行かなかった |
痛い
痛くない +そうだ
痛かった
痛くなかった |
な形容詞/名詞+だ |
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元気/休みだ
元気/休じゃ/ではない +そうだ
元気/休だった
元気/休じゃなかった |
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● 「~そうだ(伝聞)」と「~そうだ(様態」(?21 ~そうだ(様態))
学習者の誤りで多いのは、「~そうだ(伝聞)」と「~そうだ(様態」の混同です。前者は自分の見たり聞いたりしたことを聞き手に伝え、後者は話し手の、観察対象の概観から受ける感じ(兆候)や、事態の起こる可能性を表します。両者の意味用法は比較的はっきりしているので、学習者は意味用法というより、形や音にまどわされて使い分けを混同してしまうようです。
(8)ニュースによると、台風が来そうだ。(→~台風が来るそうだ。)
(9)(人から聞いて)あのレストランは安くておいしそうです。→(~安くておいしそうです。)
(8)は「~そうだ(様態)」、(9)は「~そうだ(伝聞)」での学習者の誤りの例ですが、伝聞を表したいときは、「動詞・形容詞・「名詞+だ」の普通形+そうだ」、様態を表したいときは「動詞・形容詞の語幹+そうだ」を徹底させる必要があります。特に「い形容詞」では、語末の「い」があるかないかが学習者にはつかみにくい場合が多いので注意が必要です。
●伝聞表現のいろいろ
人が誰かに何かを伝える「伝聞」には「~そうだ」以外にどんなものがあるのでしょう。「台風が来る」を例にとりましょう。
a.台風が来るそうです。
b.台風が来るらしいです。
c.台風が来ると言っていました。
d.台風が来ると聞きました。
e.台風が来るという。
f.台風が来るとのことです。
g.台風が来るということです。
h.台風が来るって。
i.台風が来る。
j.台風が来るよ。
eは書かれたもの(小説、エッセー、など)の中で使われます。f,gは改まった感じがあり、ニュースなどでよく使われます。ⅰ,jは一見伝聞とは関係がないようですが、次の例を見てください。
(8)子供:お母さん、台風が来る(よ)。
母親:あら、どうしましょう。
子供:さっきラジオで言ってた。
(8)のように、話し手(子供)が、台風が来ることを大変なことととらえ、相手に知らせています。このようなときは、動詞の辞書形(辞書形+よ)が伝聞として使われることがあります。(9)においても、大変なこと、知らせる価値のあることととらえて、女優○○の結婚をBに伝えています。
(9)A:女優の○○、結婚するよ。
B:Hee~。
A:さっき、ワイドショーで記者会見やってたよ。
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